日本に棲息する水生昆虫の中では最大種。1960年代の農薬大量散布や棲息環境の悪化などにより数が激減し、今日ではもっとも絶滅の危機に瀕する昆虫のひとつであるといえます。
メスの体長は7cmにおよぶこともあり、成虫はカエルやフナなどの大型の獲物をも捕食します。目の前を通りすぎる獲物をその特徴的な太く巨大な前脚ですばやく捕らえ、すかさず鋭い口吻を突き刺し消化液を流し込みます。その後、溶けた肉をゆっくりと吸飲します。しかしその獰猛なイメージとはうらはらに幼虫時は非情に脆弱であり、あらゆる天敵の攻撃や環境変化を生き抜き、成虫まで成長できるものはごくわずかです。
繁殖は4月〜8月にかけて行われ、1匹のメスが何度も繁殖を繰り返します。オスが水面を一定周期で打ちメスを誘います。産卵は夜更けから明け方にかけて、水面からある程度突き出した杭や水草などに行われ、約50〜70個ほどの卵を産みます。メスは産卵後、新たな交尾相手を探すためすぐにその場を離れてしまいますが、オスはその場に残り卵が孵化するまで卵を守ります。卵が孵るまでのおよそ10日間、オスはほとんどエサを摂ることなく卵を乾燥から守るためにひたすら給水行動(水を口に含み、運び上げて卵をぬらす)を繰り返します。やがて卵は一斉に孵化し、幼虫は自分で獲物を捕らえることができるようになるまでさらに数日間、オスの庇護のもとで育ちます。
9月〜10月にかけて新成虫は越冬準備のため異常な食欲をみせ獲物を捕食します。上陸した成虫は、棲息水域近隣の直射日光が当らず、水没などの危険のない雑木林の落ち葉の下などで越冬します。
現在、タガメは深刻な絶滅の危機に瀕しており、生息域の環境改善・保全が急務となっています。灯火に引き寄せられる性質が強いため、街灯などに翔んできた個体が車などに轢かれる例も後を断ちません。1960年代以前は普通に見ることができたタガメですが、今日では野生個体を目にする機会はほとんどないと言えるでしょう。(2005.12) |